top of page
執筆者の写真aquatalkingreview

AquaTalkingReview version.2 Report by Asamura

更新日:2023年3月30日

『ミャンマーの古代湖、インレー湖における固有スネークヘッドの起源』


京都大学の動物生態学研究室の 福家さんに 今回のATRのテーマである アナバンテッドの一員スネークヘッドの一種 ハーコート・スネークヘッド(Channa harcourtbutleri)の起源と、インレー湖の淡水魚類相の形成にも迫るスケールの大きいお話をして頂きました。


2014年より ミャンマー、タイそして日本との国際合同研究チームが、古代湖として知られるインレー湖の魚類の総合的調査を行いました。これはイギリスのアナンデール博士が1918年に報告して以来 約100年ぶりの本格的な調査研究となります。(詳細はこちらから)

研究は現在も継続されており最終的には、"インレー湖における生物多様性の形成プロセスを解明"する事を目標としています。福家さんはそのチームに2017年より加わり、現在もその調査・解析の研究者の1人として活躍されています。


今回の講演では


①古代湖 そして多様な生物相を擁する インレー湖の概要 過去の研究調査


②固有種であるハーコートスネークヘッドと周辺地域に生息する広域分布近縁種(ガチュア)との遺伝的・形態的 比較


③固有種のインレー湖への 侵入時期 侵入元を推定 考察


という流れで進んで行きました。


①では、インレー湖周で福家さんが撮影された美しい水中動画が紹介され その素晴らしさに 会場からは歓喜の声があがりました。

──透明度の高い水中には美しいロタラなどの水草が繁茂しそこを群れを成してレッドフィンレッドノーズが射し込む陽の光を受けて輝いていました。



(レッドフィンレッドノーズは1918年にアナンデール博士が記載したインレー湖周囲の固有種です)

水中だけではなく、インレー湖周囲に生活している人々 イニダー族の漁や 浮き畑について、また市場に並ぶ魚の画像等を紹介頂きました。

また、インレー湖の地理的位置や魚類相の特異性 現在の環境変化や 外来種移入の問題など、詳しい解説がありました。

また、インレー湖の生物多様性について、ひとつの分類群が爆発的に種分化する 適応放散型ではなく 環境の多様性は大きくないが、多くの分類群が共存し それぞれ独自の進化を遂げた豊かな生物相を育くむ琵琶湖に似た古代湖である事も紹介されました。



②では、福家さんが詳しく調査した インレー湖の固有種である

ハーコートスネークヘッド

Channa harcourtbutleri

についてお話頂きました。スネークヘッドを何種か飼って興味を持ったアクアリストならば ハーコートスネークヘッドの名前は知っているでしょう。しかし私もそれがインレー湖周囲の固有種だとは 認識がありませんでした。

ハーコートスネークヘッドは、ドワーフスネークヘッドのグループの一員として知られています。インド産のChanna gachua そして、インドシナ地域のlimbataと近縁種とされています。ここでは、ドワーフスネークヘッドを総称して "ガクア"とします。福家さんは、ハーコートスネークヘッド146個体(インレー湖内 及びその周辺域 6地点)と、ガクア66個体(ミャンマー タイ カンボジア インドネシア他 15地点) を比較・解析しました。

手法としては遺伝的解析(MIG-seq, mtDNA)と形態解析(ランドマーク法)で行われました。

(図-挿入予定)


結果として、遺伝的解析ではハーコートスネークヘッドは インレー湖内の個体群と インレー湖に流入する河川個体群との 2つのグループに分けられることがわかりました。

更に 河川グループは2つのタイプ の遺伝型に分けられる事も分かりました。

そして 河川グループの一つの型は 固有種になった後にガチュアとの交雑があった事が判明したそうです。

また、それぞれの分岐した時期もある程度判明していて、ガチュアと、ハーコートスネークヘッドの分岐した時期は300~670万年前、また、インレー湖内の個体群と河川型の分岐は 140~400万年前 との解析結果が出ました。

インレー湖ができたとされる 150万年前よりも前に ガチュアとハーコートスネークヘッドは分岐している事になります。

今の遺伝的解析技術を持ってすれば、様々な事をかなり詳しく分かる事ができることに驚きました。


また、形態の解析では インレー湖内グループと河川型グループで 大きな違いは見いだせなかったものの インレー湖内の個体群の方がスレンダーで、河川の個体群の方が頭が幅広である事が分かりました。

一見流れのある所にいるものの方がスレンダーなのではと思いきや そうでは無いのは、単純に流れのあるなしだけではなく、繁殖形態や生態の違いが有るのかもしれないとの考察が示されていました。

因みに今までの観察では繁殖形態までは解明されていないとの事でした。



③インレー湖ができた時期とハーコートスネークヘッドが侵入してきた時期についての考察がなされました。

遺伝的解析で、それぞれの分岐した時期もある程度判明しています。

ガチュアと、ハーコートスネークヘッドの分岐した時期は300~670万年前、また、インレー湖内の個体群と河川型の分岐は 140~400万年前 との解析結果が出ました。

インレー湖ができたとされる 150万年前よりも前に ガチュアとハーコートスネークヘッドは分岐している事になります。

これらの事から……




今の遺伝的解析技術を持ってすれば、様々な事をかなり詳しく分かる事ができることに驚きました。


この魚を記載したのはイギリス人の博物学者 ネルソン・アナンデール博士。日本が大正時代に植民地インドのコルカタ博物館の館長として アジアの生物調査を精力的におこなった方です。日本でも、琵琶湖の調査を京都帝国大学の大津臨湖実験所の川村多実二教授らと調査をおこない沢山の業績を残されています。



琵琶湖の固有種である アナンデールヨコエビも、アナンデールさんの調査で発見されました。

後日 福家さんは、京都大学総合博物館所蔵のアナンデールさん寄贈の標本を発見し、その詳細を報告されています。

福家さんとアナンデールさんは100年の時を超えて琵琶湖とインレー湖で繋がりを得た様ですね。素敵です!(記/淺村 峻一)

閲覧数:39回0件のコメント

最新記事

すべて表示

広報活動

メンバーの総意とかじゃなく私個人の勝手な戯言です。 現在、ポスターとフライヤーが完成し、各メンバーが馴染みのある店舗へ順に広報活動でお邪魔してます。 参加費でいくらかは回収を試みていますが、まあまあ、自費です。 「なんでそこまでするの?」っていうところですが、なるべく沢山の...

Comments


bottom of page